ステレオスピーカはユーザの頭部とLR2本のスピーカが正三角形の配置、もしくはユーザーの頭部を頂点とする二等辺三角形が理想的です。その理由を考えてみましょう。
◆ハース効果とは
一般的なステレオ音源(LR音源)は、各々の楽器やボーカルの音像を人間の両耳効果を使って知覚させています。もし、LRどちらかのスピーカがユーザの近傍で、どちらかのスピーカが遠方の場合、音像はどのように知覚されるでしょうか?
音は空気中を伝播するとき、一定の速度をもって進みます。よって、ユーザ近傍のスピーカから放射された音はユーザに早く到達し、ユーザ遠方のスピーカから放射された音は遅れて到達します。その結果、音像は先に到達した音(すなわち近傍のスピーカ)に引っ張られ、ステレオ音源で表現したい音像から離れてしまいます。この現象はハース効果と呼ばれ、ステレオスピーカ2本はユーザから等距離(正三角形or二等辺三角形)に配置しなければ、ステレオで表現したい音像の知覚が難しくなります。
◆ハース効果を使った音像定位
この話を聞くとハース効果が音像知覚の邪魔をしているのか?と感じるかもしれませんが、ハース効果を積極的に使って音像を際立たせているのがホール音響です。一般的なホールでは、複数のスピーカが壁や天井に設置されていますが、すべて同じタイミングで音を放射しているとは限りません。仮に広いホールにて、舞台上と同じタイミングで壁や天井に設置したスピーカから音を放射すると、舞台から遠く離れた客席では舞台上の演者の声よりも早く壁や天井から音声が到達するため、ハース効果の影響で音像が壁や天井に引っ張られ、舞台方向に音像を知覚しにくくなります。
そこで、前述のハース効果を積極的に活用し、舞台上の演者の声が客席に到達するまでの時間をあらかじめ算出し、壁や天井に設置したスピーカの放射音が演者の声よりもわずかに遅れて到着するよう音響ミキサーなどを使ってディレイを付与することで、広い客席であっても常に舞台方向に音像を知覚させることができます。これが、ハース効果を活用したホール音響の基本的な仕組みとなります。
◆ディレイの設定
では、ハース効果を際立たせるディレイはどのくらい付与するのが良いのでしょうか? たくさんディレイを付与すれば良いというものではなく、目安としては数m~30msec程度が理想的と言われています。もし50msecを超えてディレイを付与すると、ハース効果の限界を超え最初に到達した音と遅れて到達した音が別々の音(2音)として知覚します。この現象はやまびこが良い例です。山に向かってヤッホーと叫ぶと遅れてヤッホーの反射音がかえってきます。対象となる山が340m離れていると、やまびこは往復で2秒遅れてかえってきますので、別々の2音(自身の声とやまびこは別音)として知覚しますが、狭い室内でヤッホーと叫んでも、壁が近くにあるためヤッホーの反射音は数十msecで到達し、一つの音(自身の声とやまびこは同一音)として知覚します。
◆大学の教室にて
ちなみにこのハース効果は大教室の音響設備にも活用されています。私が教卓付近で話した声は、ハンドマイクを通じて壁や天井に設置されたスピーカからも放射されます。その際に教室の中・後方のスピーカは、私の声の直接音が各学生らに到達するよりもわずかに遅れて到達するように、各座席位置に応じたディレイが付与されており、常に教室前方に音像を知覚できるよう工夫されています。
もし私が教室内を動き回って講義をした場合、ハース効果が崩れ学生の意識が散漫になる可能性もありますので、特に大教室では教卓付近でしかマイクを使わないよう意識して授業を行っております。
以上
◆編集部より
ハース効果を使った音像の定位は、企業の会議室でも活用できる仕組みです。プレゼンをする人の声がちゃんと前から聞こえます。
スタジアムのように、縦に使ったり、横に使ったりするスペースでは、ディレイの設定が都度変わります。そういった場合はシーン切替できる音響システムにしておくことも重要です。
JATO online shopでは、ディレイ設定ができるパワーアンプや室内に配置するスピーカーを各種取り扱っております。
また、ジャトー株式会社ではハース効果を踏まえたディレイを付与できる音響システムの設計・施工を承っております。ぜひご相談ください。
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